20000825

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週明けのプレゼンのための資料を作成し終えると、もう広いオフィスはには人の姿がなかった。
セキュリティーカードで裏門から退庁、駅前の「らんぷ亭」で夕食
街の灯りを映して揺らぐ神田川をぼんやりと眺めながら「おろし牛皿定食」580円也
一週間を逃げ切った僕は部屋に辿り着きベッドに横たわる。
昨日買った[Walts for Debby]を流すと、あっという間に意識がどこかへ飛んで
いってしまいそうになる。
なんだか、曲の間にも聞こえてくる聴衆のリラックスした笑い声や
グラスのぶつかり合う音までが完璧なセッションの一部になっている。
1961年6月の日曜日
その日ビッレジバンガードには何か魔法がかかったのだろうな。
僕は生まれてもいないのに 時空をまたぎ、その日の音が 何度も僕をその場へ誘う。
今日はもう一度このアルバムを聴きながら目覚ましをかけずに眠ろう。

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20000824

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夕刻にオフィスを出ると海の匂いがした。
オフィス街にも時々、海からの風が届くのだ。
僕はしばし足を止めて、最後に暮らした美しい海と島のことを思い浮かべる。
今すぐにそこへ行きたい。
地の震えがいつまでも収まらない。
海岸線の稜線は無惨に形を変え流れ込む灰が珊瑚の息を止める。
だけど海も島も死ぬことはないだろう。
灰の下にはもう新しい命が呼吸をはじめているだろう。
はるか先の時代にすでにあった営みを
海と地が繰り返しているに過ぎないのだ。
ひとつの時は去り、次の時がくる
僕や愛する人々のすべてが土に帰っても海や地はいつまでも変わらないだろう。
目の前の神田川は今日も海に流れこんでいる。
だけど海はいまだに満ちることがない。
昔あったことは、これからもあり
昔起こったことは、これからも起こるのだろう。
新しいものなどひとつもない。
毎日目にする「新しいもの」は後の人々の記憶には残らないだろう。
時の流れに耐えた美しい音が欲しくなり新宿のタワーレコードに立ち寄る。
探していたBill Evans TrioのWaltz for DebbyのCDを手に入れて、僕は家路についた。

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20000823

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明け方の平原に、たくさんの天使が、空からのはしごを使って降りてくる。
そんな夢をみた。
天使はてっきり羽根があるものだと、そう思っていたのに
天使のひとりと僕は挌闘した。
砕かれたい という思いと
砕かれてたまるか という思い。
平原に日が昇ってきても僕は天使をつかんで離さなかった。
どうか 僕の腰を打ち
腿のつがいを外しておくれ。
そのまま地に倒れ込んで、負けてしまいたいんだ。

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20000822

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知っているだろう?
電話は とても もどかしくて、あまり 得意じゃないんだ。
だから なにも心配しないでくれ。
僕らを 不安にさせるものなどなにもないのだから。

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20000821

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気がつけば 日が短くなっている。
まだ残暑が厳しいけれど 秋が忍びこんでいる。
まるで 今の僕の齢のようだ。

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20000820

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パリから6年ぶりに帰国したユキを囲んで
久しぶりに大学時代の仲間と中野のアパートに集まる。
あの頃に時計が逆回りしたみたいだった。

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20000819

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真夜中にシチリア島からの電話
明け方に目を覚まし、白亜の家々とグランブルーの海を思い浮かべてみた。
その島にはたぶんいけないだろう。
僕はそう思った。
枕元で眠るコビを胸元に抱き寄せ再び目を閉じ、つぎに目を覚ますと
もうすでに日は高かった。
午後は中野の喫茶「クラシック」で、桜桃とintherainの3人でお茶を飲んだ。
夜は、ひとり映画館へ。ベッソンのTAXI2を観る。
とても映画館で観るのにふさわしいアトラクションのような映画だ。
千葉ナンバーの黒いランエボ3台がプジョー406とパリ市街でカーチェイスを繰り広げる。
日本人の悪役は、ヤクザということだが出で立ちが忍者だ。
コミカルで笑えた。
彼はもうシチリア島の映画は撮らないのだろうか。
夜の町では、二人の昔の教え子に呼び止められる。
一人は、街角で居酒屋のティッシュ配っていた。
「センセイ、俺仕事やめちゃったんすよ。いまはそこの白木屋で働いてるんです。」
もう一人は、エンディングロールもあがり照明のついた映画館。
遠くから僕を見つけて、はにかんだ笑みで会釈をしていた。
そう、ここはそういう馴染みの町で、僕は今日もここにいる。
変わり続ける日々のことを今日も書きとめてから眠るんだ。

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20000818

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どんなに暑い日だって、来客の予定がない日だって、この村では
鼠色のスーツの上着をいつでも身につけているのが暗黙の作法らしい。
判を押したように、ワイシャツだって白だ。
「ちょっともう、そんな時代じゃないんじゃないか?」と思いつつも、
僕もその掟には従っていたんだ。
はじめから、シーラカンスが住む村だっていうのは聞いていたからね。
たまにキャサリン・ハムネットやポールスミスの派手目のタイをカラード・シャツと
合わせたりすると「ルパンみたいだねぇ」なんて、上司から嫌味言われたりしてね。
そんなこというなら、本当に青シャツに赤いジャケットで通勤するぞ。
って、持ってないけどね。ルパンセット
でも、今日ははじめて上着を着ないで半袖のワイシャツで通勤してみた。
ただそれだけのことなんだけどそしたら、世界はなんとも軽やかだったよ。
早くからそうしていればよかった。
見えない掟なんて知らないふりしてさ。

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20000817

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昨夜はなんだか上手く寝付けずに、手塚治虫の「火の鳥~黎明編~」を読み耽っていた。
おかげですっかり睡眠不足。
今日一日、頭の靄を振り払いながら、言葉を推敲しては精製する作業に追われた。
仕事を終えると、すっかり腑抜けで帰りの総武線では眠りに落ちていた。
目覚めてからは、文庫で梶井基次郎の短編集を読む。
今の僕の年齢でこの世を去った作家刺さるような言葉
果たして言葉を綴る行為は作家を解放したのだろうか?
なんであれ、言葉を綴らずにはいられなかった
その熱だけが、時間を超えて僕を捉えていた。

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20000816

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「大変なことになったわねぇ」
一ヶ月ぶりに所属校を訪れた僕に事務室の女性職員達は口々に声をかけた。
だけど、その表情からはありありあと好奇心が突きだしている。
そのまま、校長室へ通され、大筋の経過を聞いた。
その後、金庫から資料を取り出し手渡されたメモの番号にダイヤルする。
しばらくの保留音のあと、家裁の調査官に電話が取り次がれた。
温和な声のその男に僕は「初めまして、彼らの担任をしていたものです」
と簡単な自己紹介をした。
調査官は、とても丁寧に今までの経過と現在の状況を僕に話してくれた。
それは、僕がすでに新聞記事で把握していたことよりとても生々しい描写で、
臭ってくるようでもあった。
その内容の意味する卑劣さに反して、僕は冷静に調査官の話を要約しながら
箇条書きにメモすることが出来た。
そのメモはまるで「時計仕掛けのオレンジ」のテロップみたいだなと僕は思った。
質問にはなるべく簡潔に答えるようにした。
出席状況や、交友関係どの質問に答えたあと
「手をかけてきた生徒です。正直、驚いています。」と話すと、調査官は少し間をおいて
「ああ、そうですか」と答えた。
電話のあと、資料をまとめていると同じ学年団を組んでいたM氏が
「うちで一杯やりましょうや」と声をかけてくれた。
あきらかに気を遣ってくれているようなので素直にお誘いに従い、彼の家でもてなしを受け
「もっとゆっくりしていけばいいじゃない」という声を抑えつつ、早々に彼の家をあとにした。
帰り道は夜だというのに、稲妻がとどろき滝のような土砂降りになった。
道路の轍は用水路のようになり、走り去る車は、高い水しぶきをあげ
あっという間に視界は遮られていく。
ワイパーはまるで追いつかず、すれ違うヘッドライトが規則的なパルスのように見えてきた。
軽い目眩を覚え僕は車を路肩に停めカーステレオから流れるspeechのボリュームを
思いっきり上げた。
一連の繰り返された犯行の殆どは彼らの在学中に行われていた。
やめてくれと懇願する人間を、いたぶり続けられのは何故だ。
彼らの闇に手を伸ばすことなく「夜遊びは程々にしろよ」なんて声をかけ
なれ合っていた僕は彼らから見ればさぞかし滑稽な教師だっただろう。

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