
ハンブルグ近郊の平原にテントをはり、全身の神経を開いた。
3日間決して止むことのない重いビートに自分をシンクロさせ
夜が明けるのを待った。
一年間宿題にしていたことを確認したかったし
状況の変化を、きちんと受け入れたいと考えていた。
隣の友人が話してくれた「明確であること」
という言葉が、自分自身の心にも刻まれた。
友人のMがポツダムからカッセルへとわざわざ駆けつけてくれた。
彼のボルボ850で、隣町のハン・ミュンデンへ。
深い森を抜けると現われる小さな街で流れる渓谷が、どこか日本の温泉街に似ている。
少し奮発して、料理とワインが自慢の川沿いのホテルに滞在した。
その夜も、次の朝も渓谷の音を聴いて過ごしデュッセルドルフへ向かう道すがら
森の中へ入り辺りを一面を豊かな音で満たした。
ドクメンタ11のためにカッセルへ向かう。
移動の間、江国香織の「落下する夕方」を読んだ。
欧州の景色が車窓から流れる中で日本語の活字や、ウォークマンで
日本語の唄を味わうと不思議な染み入り方をするので、気に入っている。
10年ぶりに訪れたカッセルは、相変わらずで
街や美術展を受け止める自分が変わってしまったのだと思った。
今回のドクメンタは誰のことも幸せにしない
愛のないキュレーションに思えてしまった。
この街をすぐに後にしたいという思いからポツダムから移動しているはずの友人に
公衆電話から電話を入れた。
ドイツ南西部へ渡る。
古城街道に沿った、バート・ヴィンプフェン(Bad Wimpfen)
という街で、老夫婦の家に居候し3日間ほど滞在した。
数多くの尖塔が美しいシルエットをつくっている小高い崖の上の街で
ネッカー川と平原を見下ろすことが出来る。
あまりにも退屈で、平和で、川沿いに寝ころんで過ごした。
日曜日のミサでは、教会堂にハイドンとモーツァルトの
オルガン曲が降り注いでいた。
マルペンサ空港に降りたのは20:00だったが、空がまだ明るい。
タクシーの窓を開けてこの街の匂いを取り込み、安堵する。
仕事の関係で、群馬県の川場村に4日間滞在した。
高原とまではいかないので、照りつける日差しは強いが
吹き抜ける風は心地よい。
上手に観光効開発されている村で、美しい地形と蒟蒻畑
そして、蛍が水を飲みに来るような清流をもっている。
夕方東京へ戻ると、いつものように渋滞した山手通りと
ビルの谷間に沈殿した、強烈な都市熱に迎えられた。
コビを預けに、実家を目指し
滑走路のような高速道路を西へと向かう。
右に見える競馬場、左はビール工場♪
そう口ずさんでしまうのはお約束
今週末は土日もなくなってしまう怒濤の日々
留守番の多いコビは、甘えん坊モード全開
そんなに仕事カバンが好きなら
それ持って、僕の代わりに行っておくれ。
遠い南海から水蒸気が立ち上がり
大きなうねりが生まれている。
東京の空は、もう湿度が飽和状態で
台風の通り道が何処なのか
予想図は時間刻みで書きかえられている。
真夏のような日
いやがるコビを風呂場へ連れ込み
シャンプーとブラシで丸洗いにする。
夕方からは、二子玉川の河川敷で
この夏最初のパーティー
なかなか素敵なグルーヴが生まれていて
みな夕陽を浴びながら体を揺らしている。
星が出てからは、芝生に体を深く沈め
ビートを感じながら空を眺めた。
この時間だけを求めて世界中を旅してしまう。
そんな巡礼者達の気持ちが解る気がした。