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今朝あなたから届いたメールには海のことが書かれていました。
そのことで、僕はぼんやりと思い返していました。
僕が海について知っている幾つかのことを。
なにせ海のある村を離れて、もう5年たつのです。
まず、いまだ知らないこと。
海を表す色の呼び名と、海を描くのに必要な絵の具。
少しだけ知っていること。
靴を脱いで飛び込むべきところだということ。
そこは聖なる幕屋だから。
そして真昼に海に包まれたなら、どこまでも自分を誘うような放射状の光りを
決して追ってはいけないということ。
その光りの中心の黒点は、深淵に映し出された太陽を背にした自分自身の影だから。
深度が増すごとに、まるで哀しみや怒りが浄化されていくようだけれど、消え去ったのだと
思ってはいけないということ。
それはただ精製されてサラサラの粒子に変わったにすぎないということ。
逝ってしまった人々のことを思って涙が溢れるのは深度30メートルで吸い込む窒素に
酔うせいにすぎないということ。
バベルの塔のことをいつも考えてしまうのは許されないエリアへの入場を懇願してしまう
せいと、潜っているのか上昇しているのかが判らなくなってしまうせいだということ。
地上に戻る理由は、自分で見つけなければいけないということ。
地上に上がった僕は、もう一度そこへ行くべきかは今はわからないということ。
そこにいまだ僕の場所があるならば、幸せだということ。
今夜は眠る前にシチリアの海を思いながら、目を閉じて祈ることにするよ。
おやすみなさい。

投稿者:uchimura_it|Comments (0)

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