19980609

今日は、K氏が午前中休暇を取っていた。珍しいことだ。
午後、出勤してきたK氏の表情は沈痛なものだった。
休暇の理由は、昨夜かかってきた、受け持ち生徒からの電話だ。
K氏のクラスの暗闇(仮名)からの電話は、昨夜10時頃に自宅にかかってきて、
夜中2時まで続いたのだそうだ。
暗闇は、今年度、一つ上の学年から降りてきた生徒だ。
昨年まで、強迫神経症で入院し、休学していた。
だから、今年度、退院となって復学する際には、どのクラスで受け入れるか、
配慮点なども話し合い、K氏のクラスとなった。
もちろん「病気は完治した」と聞いていた。印象としては、ナイーブそうな小太り
の少年と言った感じで、教師との受け答えもふつうだ。
誰の目にも、「病気は過去のもの」と映った。
しかし、暗闇は、最近学校を休みがちになった。
遠足の班づくりがきっかけだったという。「自分は無視されている」と言うことが多くなった。
K氏は、彼に「そんなことはない」と否定しながらも、彼の言葉に耳を傾けることに時間を費やし、
クラスの些細な人間関係にも配慮するようにしていた。
しかし、昨夜の電話の内容は攻撃性に満ちていたという。
「自分を無視した奴らを殺すことにした。」「担任のおまえにも責任がある。
刺されるとしたら、どんなナイフが良いかを言え」
「おまえに子供がいるのも知ってる。子供の顔をメッタ刺しにしてやる。」
そんな言葉を、早口で4時間まくしたてたのだそうだ。
親は、その様子をただ黙ってみていて、最後に電話口にでて「すみません」と謝った。
病気はちっとも治っていなかった。翌朝、K氏が暗闇の主治医に電話をすると
「ええ、まだ完治してないんです。少し悪化しているかもしれない」と言った。
放課後、K氏は自宅に電話を入れ、奥さんに家族の安否を確認していた。
僕は、激しい怒りを抱いた。何に対してだろうか。
ここまで、我々の日常が浸食され、傷つけられなければいけない事が起こりうる、という事実に。

投稿者:uchimura_it|Comments (0)

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