コビ
おまえはいつからそんなに居座っているんだ。
3年前の今頃、おまえは野良だったじゃないか。
生後6ヶ月くらいで、家の周りをウロウロしていた。
寒そうに泣いていたから、夕食の残り物をくれてやったんだ。
腹が満たされたら、おまえは自分でガラス戸を空けてどこかに帰っていったじゃないか。
そんなドライな関係が、結構良かったんだ。
やがて、僕の帰りが遅い日など、おまえは玄関の前で僕を待つようになった。
ハチ公みたいなふりしても、僕は知っていたんだぞ。
おまえが昼の間は、お隣で「ジロー(雌なのに・・)」と呼ばれ、
そのまたお隣さんには「みーちゃん」と名付けられていたのを。
そんな、誰にでも媚びるおまえにぴったりの名前は「こび」だ。
次第に、おまえは家に居座る時間が長くなった。
押入や、タンスの隅々まで探検するようになった。
いつものようにうちに遊びに来ていたおまえは、その日は様子が違った。
台所で、歯を磨きながら僕は「そろそろ帰る時間だぞ」
と声をかけたら「はにゃーっ」とか言って、破水しはじめたんだ。
おまえが妊娠していたなんて、その時初めて知ったぞ。
てっきり、デブ猫なんだと思っていた。
あわてて、押入に段ボールと古いバスタオルを敷き詰めて、
出産の準備を整えてやったのに、おまえはそこを飛び出して
僕のベッドの上で出産をはじめたんだ。
前から出産はここでと、決めていたかのように。
この日のシーツは、一番お気に入りのパイルだったのに。
その日以来、おまえはずっと家にいる。
一度、子育てを放棄して家出した。
俺は見たぞ。
その時、二匹の雄猫をたぶらかして遊んでいたのを。
そのあと、すっきりした顔して帰ってきたな。
おまえの4匹の子供達を、養子縁組させるのにもすごい苦労したんだぞ。
仔猫達をアルバムにして持ち歩き、四方八方営業したんだ。
一度なんて、2匹まとめて貰ってくれた人から「やんちゃすぎます」とか言われて、
1週後に返品されたんだぞ。クーリングオフってやつだな。
仔猫たちがすべて里子にだされてから、
おまえはさらに余裕かましすぎていないか?
可愛いだけで生きて行くなんてことができるのか?
俺にもその方法を教えてくれ。
今、家探してるんだけど「ペット可」なんて少ないぞ。
少しは、その苦労も解ってほしいもんだ。
おまえ、もともと野良だったじゃないか。
なのに、どうして僕はおまえを中心にして家探しをしているんだ?
ちくしょー。
もう、おまえ無しの生活なんて考えられくなってるよ。