久しぶりにミラノ郊外のサンジュリアーノ市にあるIKEAの大型店舗を訪れた。
いつもながら、見せ方のうまい空間プレゼンに感心しながら、アートのコーナーでは
「うむむ。」と、なんと言って気持ちを表せばよいのかわからず、思わず唸ってしまった。
最高では勿論ないが「悪くない。」
すなわちIKEAバリューのインテリア・アート
これがなかなかどうして、結構よくできているのだ。
匿名的な抽象画、マチエール(絵肌)もあってキャンバス素材にジークレー印刷が見事だ。
一枚のお値段は100ユーロを切って99.9ユーロ、一万円のアートだ。
絵柄も悪くない。もちろん素材はフェイクだ。本物の絵画(このサイズ)を
一万円で売ったら作家は絵の具代も回収できないだろう。
それにしても、かつてのインテリアアートよりも、はるかにセンスが良いし
潜在的に美術好きを増やし、鑑賞者の層を底上げしているのかも知れない。
日本で100円の回転寿司が普及しても、昔ながらの板前さんがやっている
カウンターの寿司屋も無くなることはなく、帰って客層が拡がったとも聞いたことがある。
写真も、前から思っていたのだけれど、これまた「悪くない。」のだ。
モノクロームの風景画や、マクロレンズで撮影された植物
一枚のお値段も4ユーロ(約400円)
これは、自分で写真用紙を買ってきて、顔料インクでプリントするよりも安いかも知れない。
まさに、世界を市場として量産する前提で実現できる価格だろう。
プロのフォトグラファーも、この現状を決して無視はできないのではないか。
正直に言うと、僕は今まで「IKEAで買ってきたアートを壁に飾るのってどうなの?」
と思っていた。
高校から美術系の環境で純粋培養されたせいか、自分にはアート至上主義というか
本質追求主義のようなところがあって、とりあえず「アートっぽいもの」を飾る姿勢が
好きになれないし、それならば白い壁のほうが良いのではないかと考えていた。
だって、美術の世界に関わらず「とりあえずアート」って、街に溢れているではないですか。
居酒屋や焼肉屋がおしゃれなダイニング風を気どるならば「とりあえずジャズ」って感じで
コルトレーンがかかっているとか。
キャンドルの灯りの中でのアロマ・マッサージの店では、癒しを演出して
「とりあえずノラ・ジョーンズ」がかかっているとか。(偏見なのか、俺よ。)
でもIKEAは、そんな僕に誇らしげに語りかけてくるのだ。
「一部のアーチストやギャラリーの間にだけあった、特権階級意識の隙間をついて
わたしたちは、インテリアとして、全ての人に身近にアートを届けたいのです。」
なるほど、もっともだ。(実際にそんなことは言われていないけれど)
洋服に、オートクチュールの選択しかなくて、ユニクロがなかったら大変だと思う。
これならば「とりあえず」白い壁よりも、良くなるかもしれない。
でも、僕の中の「うむむ。」という、モヤッとした気持ちは消えない。
大量生産のインテリア・アートと、一点本質主義のアートとの間を
もうすこし埋めてることが出来ないかな。
自分だったら、何が出来るかな?
そんな風に考えるきっかけになった今日のIKEAでした。
10年前の今日
←今日もそこにいてくださってありがとう。