19991115

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「入港日」と「出航日」
その2つのイベントを中心にして、
全てのカレンダーがまわる。
僕は最初に暮らした島の事を思い出していた。
その島は、東京から30時間船で南下した大洋に浮かんでいる。
2等船室に30時間雑魚寝をする。
考え事をするには十分すぎる時間で、気分転換というにはあまりにも長い。
いずれにしても、いつかはその島にたどり着く。
船を降り立つと、飽和状態に湿度を含んだ空気に包まれ、
体中の毛穴が開くので、ここが亜熱帯なのだと解る。
はじめて訪れる人は、入港したその船が、圧倒的なテンションで
港に待ちかまえる人々によって歓待されるのに驚く。
その船は、島の人々にとって実に一週間ぶりの外界からの使者なのだ。
郵便物・生鮮食品・過去1週間分束ねられた新聞。そして人。
すべてがこの船に託されてやってくる。
船の入港はたいてい午後3:00
しけの具合に左右されるので、入港する日の朝に、船の到着予想時刻が島中に放送される。
だれもが、天気予報よりもはるかに注意深くその放送を聞く。
船は湾に入ると、汽笛をならす。
そうすると誰もが職場を放棄して、港に向かうことが許される。
それが「入港日」
主婦は、1週間分の献立を頭に入れて、
荷下ろしされたばかりの生鮮食品を確保する。
のんびりしてりいると、1週間肉は食べられない。
中高生は、むさぼるように雑誌を立ち読みし、
東京の流行が分かるファッション雑誌から飛ぶように売れる。
船は、2~3日の間港に停泊する。
その間、人々の表情は心なしか穏やかだ。
その気になれば、キップを買って本土に行くことが出来る。
外界との接触が可能だと分かるだけで、安心するのだ。
船が出航する日に港へ行く人は、
自分もその船に乗る人と、見送る人だけだ。
見送りの人々は船が出航すると、あまり船が小さくなって行く姿を見ないようにして
それぞれの持ち場に帰って行く。
その日は、皆少し無口に仕事をする。
それが「出航日」
そして、また数日後に戻ってきてくれる船のことを考えながら一日一日を過ごすのだ。

投稿者:uchimura_it|Comments (0)

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